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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)3184号 判決

被告人

(一)本店所在地

東京都港区赤坂二丁目一三番一八号

有限会社 三芳

(右代表者代表取締役 赤池芳明)

(二)本籍

東京都江戸川区南小岩八丁目二五二一番地

住居

東京都港区赤坂二丁目一七番六九号ムトウコーポ四〇六

職業

会社役員

赤池芳明

昭和一五年三月九日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官五十嵐紀男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社三芳を罰金一、二〇〇万円に、被告人赤池芳明を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人赤池芳明に対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社三芳は、東京都港区赤坂二丁目一三番一八号に本店を置き、茨城県土浦市桜町二丁目五番五号に「尼寺」の屋号で営業所を設け、特殊浴場を営む資本金一五〇万円の有限会社であり、被告人赤池芳明は、同会社の実質経営者(昭和四八年一一月二〇日から同四九年八月三一日までは代表取締役)として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人赤池は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、入浴料収入等を仮名預金に分散して預け入れる等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四八年一一月二〇日から同四九年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三二二二万四二四五円(別紙(一)修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一二一六万九六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)であったにもかかわらず、同四九年一二月三一日の納期限までに同都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額一二一六万九六〇〇円を免れ

第二  昭和四九年一一月一日から同五〇年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四一一三万二九九〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一五六一万二八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)であったにもかかわらず、同五〇年一二月三一日の納期限までに前記麻布税務署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額一五六一万二八〇〇円を免れ

第三  昭和五〇年一一月一日から同五一年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四五二五万一四五二円(別紙(三)修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一七二六万四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)であったにもかかわらず、同五一年一二月三一日の納期限までに前記麻布税務暑長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額一七二六万四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実及び全般にわたり

一、被告人の当公判廷における供述

一、同じく収税官吏に対する各質問てん末書(六通)

一、同じく検察官に対する供述調書(一通)

一、東京法務局登記官作成の被告会社登記簿謄本

一、畠山清、花城良子、永岡三千代の収税官吏に対する各質問てん末書

判示第一、第二の各事実添付の別紙(一)、(二)、(三)の修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額につき

<入浴料収入・雑収入につき>

一、畠山清の収税官吏に対する質問てん末書

一、花城良子の収税官吏に対する質問てん末書

一、永岡三千代の収税官吏に対する質問てん末書

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付入浴料収入調査書

一、同じく同日付雑収入調査書(雑収入のみにつき)

一、押収してある被告会社売上帳一冊(当庁昭和五三年押第三二四号符一)、同じくメモ一枚(前同押号符二)

<受取利息につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付受取利息調査書

一、同じく昭和五二年一〇月二九日付預金調査書

<人件費につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付人件費調査書

<燃料費につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付燃料費調査書

<タオル代につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付タオル代調査書

<電気料金につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付電気料金調査書

<ガス料金につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付ガス料金調査書

<水道料金につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付水道料金調査書

<電話料金につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付電話料金調査書

<賃借料につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付賃借料調査書

<保険料につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付保険料及び積立保険料調査書

<交際費につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付交際費調査書

<雑費につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付雑費調査書

<租税公課につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付租税公課調査書

<事業税認定損(昭和五〇年一〇月期、昭和五一年一〇月期)につき>

一、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月三一日付事業税調査書

(いわゆる認定利息・認定報酬に対する当裁判所の判断)

一、検察官は、被告会社の収入金が被告人赤池により個人的に費消されたことにつき、被告会社からの被告人赤池に対する金銭の貸付金と認定できるとし、その金額を集計して、昭和四九年一〇月期につき二六八八万三七二三円、昭和五〇年一〇月期につき六九一七万一九七七円と合計し、同金額をもって、各翌期首に代表者に対する貸付金があるものとして(代表者勘定)、その利息分として一〇パーセントを認定し、昭和五〇年一〇月期につき受取利息二六八万三七二円、昭和五一年一〇月期につき六九一万七一九七円を認定利息としたうえ、右各金額を逋脱したものとなし、また、他面、右代表者貸付金利息相当額をもって、被告人赤池に対する同事業年度における認定役員報酬としての人件費に該るものとして損金に算入する旨主張する。

二、この点につき、収税官吏中村健二郎作成の昭和五二年一〇月二九日付代表者勘定調査書(甲22号証)によれば、一応右にそうかの如き金額のあることは認められるが、しかし、被告人赤池は当公判廷において、被告会社との間における金銭消費貸借契約の存在を否定しており、それは国税局係官に貸付金ということにしろと指示されて決めたことであり、年一〇パーセントの利息についても、右係官からいわれたとおりに処理したに過ぎず、金員を支払ったこともない旨申立て、契約書を当時作成したこともなければ、担保を設定したこともなく、勿論、返済期限等の約束もなく、社員総会における他の社員の承認もなく議事録の作成もないし、右金員は被告人個人の建物購入代金の支払のために振出した手形を落すために費消したものである旨供述している。

また、金銭消費貸借契約並びに債務確認書(弁8号)によれば、被告会社と被告人赤池との間に金銭消費貸借契約を締結し、かつ、債務を確認した旨の記載のあることは一応認められるが、しかし、これも被告人赤池の当公判廷における供述によれば、それは、国税局係官の指示により、本件査察調査による事後の処理として、被告会社の資金を費消したことにつき貸付金という形式をとったにすぎないもので、本件脱税発覚後に指示を受けて作成した書面であり、被告会社の資金を勝手に費消した当時において、そのような契約があって行なったわけではない旨供述している。

三、右各証拠を総合すれば、本件における金銭消費貸借契約による貸付金の存在は全く架空のものであって、被告人赤池が被告会社の資金を個人的に勝手に費消したことにつき、本件脱税が発覚した後の事後の経理処理として、国税局係官の指示に基づいて、年一〇パーセントの利率による貸付金という形式をとったに過ぎなかったものと認められる。

すなわち、各期首貸付金なるものの実体は、本件において査察官により判明した右個人費消額の前期末残高にすぎないのである。

しかして、金銭消費貸借契約並びに債務確認書(弁8号)も、国税局係官の指示により、被告人赤池が各事業年度中に個人的に勝手に費消した金額を集計して、その金額を翌期首にそれぞれ貸付金があったものと擬制して、同金額を被告会社に返戻させるための方法として前掲書面を作成させたに過ぎないものと認めることができる。なお、被告人赤池の収税官吏に対する昭和五二年一一月二日付質問てん末書(乙6号証)や検察官に対する供述調書第八項(乙7号証)によれば、被告会社との間に金銭の貸借があったかのような記載はみられるが、しかし、それは単に被告人赤池が被告会社の資金を個人として勝手に費消し自己の土地建物の購入代金を支払ったことを述べたにとどまるものと認めるのが相当である。

そこで、被告人赤池の費消当時において、消費貸借契約自体が存在しなければ、事後に、たとえ契約書を作成したり、債務を確認したといって書面を作成しても、費消時に存在していない消費貸借契約を遡及させて存在するものとすることはできない。

そのような契約が存在したかどうかは、費消時において、その有無を判断すべき事実認定の問題なのである。

しかして、他に本件において被告人赤池に対する貸付金の存在ないし貸付金の発生を認めるべき証拠は存しないし、また、被告会社に認定利息相当額の益金の発生を認めるべき証拠もない。

そこで、金銭消費貸借契約の存在が認められなければ、貸付金の債権は発生しないし、貸付金利息もまた生じない。そうすると、右の貸付金利息が存在することを前提としての同額の役員報酬である人件費の発生することもないことは明らかである。

なお、いわゆる「認定」の名のもとに、存在しない取引行為を在るものとして擬制することは、税法上は法人税法一三二条の同族会社の行為計算の否認規定によらざる限り許されないし、租税刑事犯においては、その本質上、法人税法一三二条の適用は許されないと解する。

以上のとおりであるから、昭和五〇年一〇月期につき、受取利息及び役員報酬としての人件費各二六八万三七二円、昭和五一年一〇月期につき、同じく各六九一万七一九七円については、いずれも認めないこととした。

(いわゆる認定賃貸料についての当裁判所の判断)

一、検察官は、被告会社が本件土地、建物の使用につき、その所有者である被告人赤池と、被告会社間において、賃料・使用期間等の取り決めがないまま三年間にわたって無償で使用を継続してきた事実に照らすと、右は使用貸借契約の存在しか認定できないところ、賃料を支払うのが社会的実体に則していると考え、月額一五万円を賃料と認定し、一年分(昭和四九年一〇月期については一一ケ月分)を乗じた額を損金に算入したうえ、各事業年度の逋脱額を算定した旨主張する。

これに対し弁護人は、本件土地、建物を被告人が取得する以前に、被告会社は、前賃貸人であるロイヤル商事株式会社から賃料月額一六〇万円、保証金一、五〇〇万円の約で賃借していたものであるから、月額一五万円の認定は小額にすぎるというべきで、被告会社と被告人赤池との間には賃貸借契約も、賃料支払の事実もなかったが、右一五万円と一六〇万円との差額相当額は被告会社の所得額から控除されてもしかるべきである旨主張するので、この点につき当裁判所の判断を示すこととする。

二、証人中村健二郎の証言、被告人赤池の当公判廷における供述、被告人の収税官吏に対する昭和五二年一一月二日付質問てん末書(乙6号証)、被告人の検察官に対する供述調書(乙7号証)建物賃貸借契約書(弁4号)、領収証(弁5号の1ないし3)建物賃貸人の地位譲渡通知書(弁6号)、不動産売買契約書(弁7号)、特殊浴場の経営を事業目的とする被告会社の原始定款(弁10号)、被告会社の登記簿謄本(甲1、29号証)の各証拠を総合すれば、被告会社が昭和四八年一一月二〇日設立されたこと、本件建物の賃貸借契約は昭和四八年一一月一四日成立したこと、右契約書の書面には賃貸人としてロイヤル商事会社、賃借人として有限会社三芳代表赤池芳明の表示があること、賃料壱ケ月一六〇万円、保証金一、五〇〇万円と約定のあること、右賃料については同年の一一月一五日から一二月一四日迄の前納分家賃として、昭和四八年一〇月二五日付にてロイヤル商事株式会社から被告人赤池芳明に宛て領収証が発行されていること、保証金については、同じく被告人赤池芳明に宛て前同日付にて五〇〇万円、昭和四八年一一月一四日付にて一、〇〇〇万円の領収証が発行されていること、賃貸人は被告人赤池個人に賃貸したと考えていたこと、賃料は右一ケ月分のみで、その後賃料支払の事実のないこと、その後、昭和四九年三月一一日付で本件土地建物の所有権が江川工務店に移転し、その旨被告会社に通知されたこと、同月一九日付にて更に右江川工務店から被告人赤池に右所有権が移転されたこと、被告会社設立後、被告会社は被告人赤池との間に賃貸借契約の取決めもなく、また一度も賃料支払の事実もないこと、被告会社の原始定款には、賃貸借契約の事項につき何等記載のないこと、被告会社において会社資産として本件建物の賃借権が存するものとして管理しているような事蹟が何等窺われないこと、本件脱税発覚後、被告人赤池において、国税局係官に対し賃料を認めて貰いたい旨申し立て、同係官が建物の減価償却費及び固定資産税相当額を基準として月額一五万円の認定をしたことの各事実を認めることができる。

なお、検察官は賃料一六〇万円のなかには営業権が含まれると主張するが、営業権の存在を認めるべき証拠はない。

右の各事実に、被告人赤池が検察官に対して「私がロイヤル商事から賃借し、それを会社が使うという形で発足した」と供述していること(被告人の検察官に対する供述調書第四項(乙7号証)や、被告人赤池が第二回公判期日において被告人質問に際し一五万円について不服はないと申し述べていること等を併せ考えれば、本件建物のロイヤル商事株式会社との間の当初の賃貸借契約は、被告人赤池個人との間で締結されたものと認められ、被告人赤池が個人として賃料一六〇万円及び保証金一、五〇〇万円を支払ったものと認めるのが相当である。

これにつき弁護人は、被告会社が当初、ロイヤル商事株式会社から本件建物を賃借していたと主張し、これにそうかの如き建物賃貸借契約書(弁4号)はあるが、しかしながら、被告会社の設立は、叙上認定のとおり前記賃貸借契約の成立後であり、また、被告人赤池は、当公判廷において、将来設立される被告会社の開業準備行為として右契約をしたという趣旨の供述はあるが、しかし、被告会社の設立後における営業に必要な財産の賃借をしたものであるとしても、前掲被告会社の原始定款には右賃貸借契約に関する事項については何等記載されていないので、私法上は会社に対する関係において被告人赤池の行為は効力がない(有限会社法第七条参照)のみならず、被告会社の設立後においても、被告会社と被告人赤池との間に右賃貸借契約に関する事項につき何等法的な手続もなされていない。

また、私法上の効力は別として、税法上の実質主義の見地にたつとしても、前掲各証拠によれば、被告人赤池において、当初、自己の資金で賃料や保証金を支払っており、その後、本件土地建物を自己の所有名義とするために、被告会社の資金を勝手に費消して、その購入代金に充てたことや、被告会社は、法人といっても被告人赤池個人のみの出資にかかる一人会社であり、明確な帳簿書類等は備付けてなく、単に売上関係を記録したノートがあるだけであって、本件建物を管理していたような事蹟が全く窺われないこと等からみれば、被告人赤池個人が会社制度を利用して自己の収益を図っていたともみられ、法人即個人というような会社の実態であることからすれば、本件は、実質的にも、当初から被告人赤池個人がロイヤル商事株式会社から賃借していたものと認めるのが相当である。

しかして、被告人赤池において、被告会社との間に何等賃貸借契約を締結していず、無償で本件土地建物を被告会社に使用させていたのであるから、それは被告会社にとってみれば、法的には被告人赤池との間の使用貸借と認めるのが相当である。その後、被告人赤池が本件土地建物の所有権を取得したことにより、右ロイヤル商事株式会社と被告人赤池との間の賃借権は消滅し、被告会社と被告人赤池との間の使用貸借のみが残存しているものと認められる。

三、次に、検察官は、本件につき、そもそも賃料を認める必要はなかったのであるが、本件の処理にあたり被告会社の利益を考慮し、賃料を支払うのが社会的実体に則していると考え月額一五万円を認容したものであると主張し、右金額は、国税局係官の助言により、建物の減価償却費及び固定資産税相当額を基準にして算出し、被告人赤池と被告会社間における契約によって決めた金額であるから、右賃料の額につき第三者が変更を加えることはできないと主張する。

しかしながら、叙上認定のように、本件は使用貸借契約であって、賃料を一五万円とするような賃貸借契約が当初から存在していたという事実を認めることはできない。

また、本件脱税発覚後、国税局係官と被告人との談合によって、それ迄存在していなかった賃貸借契約を遡及させて、いわゆる″認定″の名のもとに、各事業年度に賃料支払債務を発生させるようなことはできないといわねばならない。

検察官の主張は要するに、営利を目的とする会社である以上は、無償で他人の資産を使用することは社会的実体に則しないというものとおもわれるが、しかし、私法上認められた使用貸借契約につき、これを選択するかどうかは当事者間における契約自由の原則に由来するものであり、どのような契約を締結していたかは事実認定の問題であって、社会的実体の如何にとらわれない。しかして、租税刑事犯においては、いわゆる″認定″の名のもとに、存在しない事実を擬制することの許されないことは、前記「いわゆる認定利息・認定報酬」において説示したと同様である。

四、しかしながら、使用借主である被告会社は法律上目的物の「通常ノ必要費」を負担する(民法五九五条一項)のであるから、目的物についての公租公課、現状維持的な保存に必要な補修費、保管費の支出があれば、それは被告会社の負担に属するので、右に相当する部分は、法人税法上、営業上の建物に生じた費用として損金に算入しうる(法人税法第二二条第三項)のであるが、検察官の主張する月額右一五万円のうち、幾何が必要費にあたるかは検察官の本件全立証によるもあきらかではない。

ところで、既に述べたように、本件が使用貸借とすれば、賃料は存しないことになる為、従って、各事業年度につき、毎月一五万円とする賃料相当額の支払はなかったことになる。

そうすると、本件各事業年度分につき、毎月一五万円の一年分の金額(昭和四九年一〇月期につき一一ケ月分)相当額が本件逋脱所得額の算出にあたり控除されないことになるので、その結果、実際所得金額も、右と同額が増加することとなり、逋脱法人税額の異動を生ずることになる。

しかしながら、検察官は、予備的にも訴因の変更を求めない旨申し立てているので(第三回公判期日における検察官の意見)訴因の拘束を受けるところから、逋脱所得の算出上、右と同額を「調整勘定」として別紙各修正損益計算書の借方欄当期増減金額欄に計上することとした。

その結果、各事業年度とも公訴事実たる実際所得金額、逋脱法人税額のとおり認定することとした(最高裁判所昭和四〇年一二月二四日第三小法廷決定刑集第一九巻第九号八二七頁参照)。

そこで、各事業年度において、仮に被告会社に前掲の「通常ノ必要費」が有ったとしても、それは、本件全立証によるも、右「調整勘定」としての金額を上廻ることが推認されないので、検察官において訴因を変更しない限り、同金額は被告人の利益に計算することになるので、この点についても何ら不利益は生じないといわねばならない。

以上のとおりであるから、本件は、結論として、検察官の主張する逋脱額とされた金額に異動は生じないことになる。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項。

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第三の罪の刑に加重)。同法二五条一項。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤智)

別紙(一) 修正損益計算書

有限会社 三芳

自 昭和48年11月20日

至 昭和49年10月31日

〈省略〉

〔備考〕 調整勘定については「理由」参照

別紙(二) 修正損益計算書

有限会社 三芳

自 昭和49年11月1日

至 昭和50年10月31日

〈省略〉

〔備考〕 調整勘定については「理由」参照

別紙(三) 修正損益計算書

有限会社 三芳

自 昭和50年11月1日

至 昭和51年10月31日

〈省略〉

〔備考〕 調整勘定については「理由」参照

別紙(四) 税額計算書

有限会社 三芳

〈省略〉

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